「コミケ奨学金」って何なんだ

さて。こんなニュースがありまして。

http://www.mdn.co.jp/di/newstopics/24900/?rm=1

ソーシャルゲームのイラスト制作を手がける株式会社MUGENUPは、クリエーター支援を目的とした「コミケ奨学金」の新規募集を開始すると発表した。

同制度は、クリエーターの技術向上と日本のポップカルチャーへのささやかな恩返しを目的に、同社がコミックマーケットへの参加経費の一部を支援するというもの。奨学金内容は、夏コミ・冬コミのタイミングの年2回にコミケ奨学金が給付されるほか、給付されたコミケ奨学金の返還義務はない。なお、受給決定後でも、同社が給付不適当と判断した場合には、以降の奨学金が給付されないことがあるという。

ほおおおいろんなこと考えるねえなんて思って良く見てみたらいろいろ不穏な要素が。

対象者は、1.応募者自身がコミケに出展しており、今後も継続的な技術向上を強く希望している人、2.同社のクリエーター登録(アルバイト・正社員)をしている人、3.イラスト制作を主に活動されている人、を優先する。

「同社のクリエーター登録」?

●支給金額
コミケごとに3万円〜10万円(同社規定による)
※当該金額から源泉所得税を控除した金額が支給される

「源泉所得税を控除」?


一応税法上、所得税法第九条第一項第十四号で「 学資に充てるため給付される金品」は非課税所得と定められてる。ただ、「財務大臣の指定した特定公益信託からを取得した場合で一定の要件に当てはまるもの」に限定される。
奨学金」という言葉には定義はないが、「コミケ参加費」は「学資」に当たるんだろうか。まあないわな。だから実質会社からの「経費援助」的な位置づけになるのか。「同社規定」がどのようなものであるかは知らないが、おそらく業務に対する「貢献度」に応じたものになってることは確実だろう。どこが奨学金だ。


そんな中公式から発表されたこんな案件。

https://twitter.com/comiketofficial/status/233521286624727040
コミックマーケット準備会 ‏@comiketofficial
【参加者へのお知らせ1】『コミケ奨学金』なるサービスがあるようですが、このサービスには、当然に有限会社コミケットコミックマーケット準備会は一切関与しておりませんし、そもそも「コミケ」という商標の利用許諾も行っておりません。皆さんにはその様にご理解いただけると幸いです(続く)。

https://twitter.com/comiketofficial/status/233520931979550721
コミックマーケット準備会 ‏@comiketofficial
【参加者の皆さんへのお知らせ2】「コミックマーケット」「コミケット」「コミケ」について商標登録を行っておりますが、これは、このような場合において、防衛的に当方の権利を主張するためのものです。参加者の皆さん、関係各位におかれましては、その旨もご理解いただけると幸いです。

商標に関してはすでに登録済みだったと。

http://www.comiket.co.jp/Trademark_J.html
(略)
 上記の名称は、有限会社コミケット登録商標もしくは商標であり、各国でも関連商標に関する権利を有しており、同人誌ファンの混乱を避けるため、第三者が主催する同人誌展示即売会については、これらの名称の使用許諾はしておりません。

 同人誌展示即売会等の開催、同人誌等の印刷物ならびに同人誌展示即売会等に関連する情報やサービスの提供をご検討の場合は、「コミックマーケット」「コミケット」「コミケ」「COMIC MARKET」「COMIKET」「COMIKE」並びにこれらに類似する名称(「○○コミケ」「××COMIKE」「△△コミケット」「COMIKET□□」等)を使用しないこととし、他の名称を使用されるよう、お願いいたします。


で、MUGENUP側も即対応。

http://mugenup.com/news/content/3
(経緯)
2012年8月8日に弊社が発表いたしました、奨学金制度の名称に登録商標を使用していることがご指摘にて判明いたしました。弊社の商標確認体制に不備があり、このような事態となりました。

(変更後の制度)
・制度名:イラストレータ奨学金制度
奨学金内容:MUGENUP登録イラストレータの中から、イラストレーションの出展・出版活動を積極的に行うクリエイター向けに活動支援金として、最大10万円までの現金を支給。
・応募期間:2012年8月7日-2012年8月30日
・対象者:応募期間内に応募登録をしたイラストレータ
・応募方法:http://mugenup.com/scholarship より登録ください。
・選考基準:応募いただいた方の中から、MUGENUP選考チームが、技術レベル等を判断の上、選考させて頂きます。

でも相変わらず「奨学金」、なんだね。
http://mugenup.com/scholarship



ちょっと前のStudygiftの件でも思ったんだけど、「奨学金」っていう言葉からは善人のにおいしかしない。この「奨学金」という言葉を使うサービスのいやらしいのは、「偽善でもやらないよりまし」って言葉があるけど、それにつけ込む要素があるところだ。

今回のこの件なんて結局「コミケに出てる絵師を自社で派遣としてこき使うために現金で吊る」案件なんだよね。「コミケ出展用の金額を支給」なんて本末転倒だ。作品に払ってやれよ。その分をさ。その金持ってその絵師の薄い本を買ってあげればいいじゃないか。


Studygiftもコミケ奨学金も「運営側が損をしないようにやる」からおかしくなる。寄付や贈与などに余計な会社の論理とかを混ぜるからおかしくなる。寄付なんて一方的な押し付けでOKで、その代わりお金を出した側は見返りなんかなく、名誉と引き換えに金銭を出すようなもので。


奨学金とか学資基金とかは会社として「慈善事業」っぽく見えるから魅力的かもしれないけど、それが対象者にどのようにわたるか、社会的にどのように位置づけられるかっていうのはもっと考えられるべきで。個人的には「奨学金」という言葉の利用にも商標権を適用した方がいいんじゃないかと思っている。