逆説的スイミー

かつてあった巨大なコミュニティ幻想は瓦解し、小さな点となって分散した。スイミーみたいに。逆か。大きな魚が分解してスイミーになったような感じか。
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でももともと魚だったから、また周りからは大きな魚と勘違いされることも多いので、集まっている魚の中には自分のことをまだ大きな魚だと思っているのもいる。そうじゃないよなーと思っている魚も何となく魚の形になって泳ぐ。


一緒に泳いでいた仲間がぽろぽろと抜けてゆく。いなくなったのか、死んでしまったのか。周囲からは「あいつ実は魚じゃなかったんだぜ」と思われ始めている。ただ「おれたちはおおきなさかなだよ!」と勘違いしたまま吠えるものと、「いや俺たちはもともと小さな魚だよ」と現実を見つめるものとで小競り合いが繰り広げられている。ただ「自分たちは小さな魚です」といった瞬間に食い物にされてしまう。現実を見つめるとはそういうことだ。


小さな魚たちは「自分たちは小さな魚です」と言えぬまま、自己を偽りながら生活する事を余儀なくされる。しかし徐々に形は小さくなっていく。いつか魚の形すら保てなくなる。その滅びを予期された集合体は、一刻も早く分解する事が唯一の救いなのだろう。でも誰もそれを言えずに漂い続けている。