attentionとengagementと握手とメディア

さて、この記事ですが。正直すごく面白い。自分の仕事にあてはめても、アイドルにあてはめても、音楽シーンにあてはめても示唆的で興味深い。

楽天レシピはなぜクックパッドに勝てないのか?
http://hiromikubota.tumblr.com/post/12920370524/the-reason-rakuten-recipe-cant

乱暴にざっくり要約すれば「共にレシピを公開し評価を受ける仕組みであるにもかかわらず、金銭的インセンティブを売りにした楽天レシピは大量の露出や会員ベースがあるにもかかわらず、報酬を得るという「仕事」に変わってしまい楽しさが無くなる」。


この図に基づけば、楽天レシピがとったポジションは「パーソナル×マネタリ―」のインセンティブで左上、クックパッドがとったポジションは「ソーシャル×ノン・マネタリー」なインセンティブで右下と対称的なポジションです。マネタリーであるほど短期に効果を上げ、ノン・マネタリーであるほど長期に効果を上げるのかもしれません。

マネタリー⇒金の臭いが強い ノン・マネタリー⇒金の臭いが薄いと考えるとイメージしやすい。

もう一つのテーマが「カタチのないものになぜ人はお金を払うまで動機づけられるのか」だ。モバゲーのアイテム課金とかオンラインゲームのアイテム課金なんかを想像してもらえば分かりやすいが「なぜ最初無料だったのにお金を払ってまで継続しようとするのか」だ。


さて。


無理やりアイドルにあてはめようとするならば、まずAKBのビジネスにとって最大の武器は大量露出と0距離接触。その2つのバランスが命だ。極端すぎて中間がない。またどちらを止めることもできない。簡単な図式に直せば、自分が握手した人がテレビやメディアに出てるわけだ。燃えるよな。その子が有名になっていく過程を超至近距離で見ることが出来る優越感。この優越感を継続したいがために、お金を払う。握手、劇場は0距離接触の為には効率が悪くてもやめられない。ただ、この2つがあるからこそ大量露出に押し流されない。大規模露出と大規模接触。すごい絶妙のバランスだ。


そのビジネス成功を傍から見ていた他のアイドル運営は、AKBと何とか差別化をしなければならなかった。自前の劇場をもっていなかったももクロは当初から「週末ヒロイン」だったように、0距離接触がメインだった。ただ大量露出という技は持っていなかった。そのために接触に偏り過ぎていた時期もあった。「怪盗少女」後風向きが変わってきたのを感じたのか、運営側のスタイルは一気に大量露出に舵を切る。接触の機会は減ったが、逆に大会場でのライブやイベントを挟み接触の機会にプレミアム感の演出を図るようになった。もう狙っているフィールドはAKBとは異なっている。


さて、かつての王国ハロプロは苦しんでいる。過去の遺産で食っていると言っても良い。そこでブレイクスルーとして期待していたのはスマイレージであり、勝負をかけたのはモベキマスだった。しかしその試みは失敗した。
なぜか。
アイドルビジネスの基本はファンクラブビジネスだった。決してヒット曲を出すことが目的ではない。ヒット曲の役割はそれによって、ファンクラブ会員が優越感を持つことのためだ。そしてその優越感の対価として会費(金銭)を払う。それが今までの仕組みだった。
ただこのビジネスには大きな問題がある。人が増えないのだ。優良顧客に厚いインセンティブを与えようとするとあまりファンクラブには人を増やせない。かといって増えないままにしていてればジリ貧になる。となるとこの商法はある一定のところで打ち止まり、それ以上の利益は神風のようなヒット曲待ちということになる。
昔と今の最大の違いはファンクラブの重要性だ。このビジネスの成長にとってじゃまになるファンクラブというリミッターを外したのはAKB。ファンクラブにしか今まで与えていなかったような特権を、開放してしまった。
ハロプロに話を戻すと、ファンクラブを捨てられず少人数でのビジネスを夢想する運営側に問題がある。それでもそのスタンスを徹底さえしていれば衰退が緩やかになるだけで済んだはずだ。
ハロプロスマイレージモベキマスで大量露出+0接触の世界に突入した。ただ「AKBファンがなぜ握手会に何度も来るのか」って考えたこととかあったんだろうか。ただ、CD一枚売るための手段として握手を考えていたのであれば、ずいぶん効率の悪い手段をとったものだ。
大量露出と0距離接触のバランスがなぜ重要かというと「顧客が自由にストーリーを想像できるきっかけになる」からだ。メディアで作られたイメージ+直接会った時のイメージが両方あることによって、そのアイドルはより身近に具体的なものになるし、それがAKBのストーリーを支えている。



AKBはメディアを制圧し続けている限り、ストーリーを作り続けることが出来る。そのストーリーに対して直接接触でそのストーリーを強化する事が出来る。そしてそのストーリーはCD買うか劇場に行かないと続きが見えない。AKBファンは喜んでそのストーリーの続きにお金を払う。そのサイクルがある限り、優位性は崩れない。結論から言うと、より金に汚いのはハロプロの方だ。CD1枚買わせるためだけの握手会をやるくらいだから。あの握手会がファンに与えるものは何もない。そこから新たなストーリーは生まれず、結果バスツアーなどのファンクラブビジネスに回帰する事になる。


商売のやり方がもう完全に違うし、ハロプロは全くそのビジネスモデルが見えてない。凋落はまだまだ続くんだろうな、と正直思う。


attentionはengagementのためにあり、engagementのためにattentionがある。この二つを切り離して考えているのが今のハロプロ。その2つを両輪のように回しているのはAKB。どちらがいいというわけではないが、同じ土俵にいる限り徹底的にやっている人間には勝てない。