ネットの中の人などいない

ライブの次の日、新宿のヨドバシにいたんだけど、あのとき「アキバでもいこうかな」ってちょっと思ってた。
行かなくて良かった。まさかあんなことになっていたとは。
何の前触れもなく凶行に巻き込まれた人のことを思うと暗澹たる気持ちになる。だけど、凶行に走った彼の心情を考えると、非常に複雑な思いになる。
「帰る場所がない」「拠り所がない」と言うのは何とも寂しいことだ。ただそれだけでは彼の心情がモンスター化する要因にはならないだろう。彼の心情をモンスター化したのはリアル/ネットでのコミュニケーションの希薄さだ。リアルでのコミュニケーションと言うのは何かと難しい。彼の周りの人間は何を考えているかわからん異星人で、その異星人は彼のことを異星人だと思っている。でも、それしかコミュニケーションを取る相手がいなかったら、取ろうとする。時間はかかるけど。ただ、彼に取っての不幸は携帯サイトだ。リアルの代用品、ガス抜きの対象として携帯サイトを利用していたのだろう。結果リアルの相手にもコミュニケーションを取らず、ガス抜きの携帯サイトが拠り所になり、コミュニケーションの仕方を忘れる。彼がコミュニケーションの仕方を忘れた、と気づいた時には周囲には誰もいない。きっかけとなるとっかかりすらない。自分はこのまま一人なんだろうか、と思うといたたまれない思いになる。そのいたたまれない思いをネットでガス抜きしようとするが、もはや抜くガスすらなくただただ澱が溜まっていく。
何となく自分の昔を思い出した。彼のような悲惨なスパイラルではなかったし、自分の周りには友達も彼女もいたけど、一時期結構荒んだ時期がある。自分のリアルでの状況がひどく荒れていたとき、そこからの現実逃避はネットだった。ネットで自分とウマが合う人間に会うとなぜかうれしいもので、リアルでの友達以上の理解者を得たような気持ちになる。趣味がむちゃくちゃ近いとか。ただ、そんなにウマがあったはずの人間とはだいたいリアルで会うこともないし、ネットでも再び会うことはない。多分、お互いに自分が言いたいことを言い終わると相手の存在が不要になってしまうんだろう。
ネットでは誰もがひとりぼっちだ。ネットで人には出会えない。ネットで得られるのは「誰かの持つ情報」「誰かの痕跡」だ。ニコニコ動画とかでもリアルタイムに書き込まれるタイミングだけがリアルに近く、その後はただただ痕跡のみを見ているのだ。
ネットを本のように見ている人と、ネットを電話のように思っている人との落差は大きい。誰かと電話をしているような気持ちでネットを使っている人はどこかで電話の相手が誰もいないことに気づいてしまう。自分が荒野の真ん中にいることに一人で気づいてしまう。でも自分の拠り所はネットであったり・・・もう想像するだけでひどいスパイラルだ。
彼の凶行は弁護の余地がない。ただ彼の生活の無間地獄を想像するといたたまれない気持ちになるのも事実なのだ。なぜか東電OL事件を思い出した。