デジタルに漂う呪いのような話

少し前の話になるけど。

知り合いの娘さんが死んだ。理由は教えてもらえなかったが、奥さんの口ぶりや態度から見るに自殺だったらしい。生前の写真がいくつかFacebookにあがっていた。かわいらしい女の子だな、と見ていくうちに、一枚の集合写真に目が行った。これは俺の知っているアイドルグループのアー写じゃないか。

自分は全く知らなかったのだが、娘さんは親元を出てアイドルをやっていた。自分はたまたまそのアイドルを知っていた。知っていただけで接点はない。ただ「ファン界隈の治安の悪い地下アイドル」という印象だけは持っていた。アイドルとしての公式のアカウントは彼女が死ぬ一週間前まで動いていた。あまり周囲に恵まれてないのか、ツイートには不平不満が多かったが、ファンのことは好きだったようだ。その子はアイドル活動初期で脱退をしていた。脱退理由がツイッターやネットの片隅で噂されてたけど、メンバーと折り合いが良くなかったらしい。彼女の脱退後、メンバーもファンたちも彼女のことに一切触れることはなくなった。

葬儀の時に自分は初めて娘さんの本名を知った。ついその名前で、ツイッターエゴサーチをした。するとその名前と携帯電話の番号をもじったIDのアカウントが出てきた。いくつかのツイートしかなかったが、そこに出てきたのは目隠しをされ縛られた女の子のセックス動画だった。

見た瞬間さすがに自分も色を失った。そこに出てる女の子が棺の中で見た女の子と同じだったのだろうか。自分にはそれを判断する自信がない。押し殺した笑い声とすすり泣きが聞こえる。とりあえず、ブラウザを閉じた。

自分はこれをどうしたらいいのかわからなかった。知り合い本人に言う…? 言えるわけがない。「あなたの娘さんの名前でポルノが上がってますけど、いや自分はたまたま見つけただけで」…言えるわけがない。探偵ごっこのようなこともやってみた。フォローフォロワーのあたりを漁って、何かしらのきっかけを見つけられたら…。しかし自分の力で出来たことは何もなかった。

結局自分が出来たのはツイッター社への通報だけだった。いろんな手段で通報をしてみた。何度も。しかしそのアカウントが消えることはなかった。直接的なわいせつ物は画面上には写ってなかった。ツイッター社の基準では「これはセーフ」なのだろう。

このアカウントの存在を知っているのは何人いるのだろう。もしかしたら、犯人と自分しか知らないかもしれない。犯人すらもう忘れてしまっているかもしれない。しかし自分は周期的にこのアカウントのことを思い出してしまうようになった。

エゴサをする。アカウントの存在を確認する。通報する。これをもう年単位で繰り返している。彼女の名前はネットにずっと漂っている。誰にも望まれぬまま。自分はうっかりその存在を知ってしまった故に、この存在と関わり続けている。いつか何かの手によってアカウントが消滅した時、やっと解放されるのかもしれない。しかしそれはいつになるかは、わからないままだ。本人も周囲も誰も望まない形で、彼女は漂っていて、消すことができない。自分は多分デジタルに漂う亡霊のような、呪いのようなものに取りつかれているのだ。